葉っぱ 回復を祈り

2008年11月1日

 「十二指腸から出血したのがもとで胃を三分の二取った。水だけでもう一週間だ。」気力も薄れた声で電話してきたのは、年は一回り以上離れているのに、もうかれこれ20年近く親交がある元新聞社の方だった。糖尿病に人工透析、病名を書けば書き切れないほどの正真正銘「病気の問屋」である。いつ何が起こっても不思議ではないのはご察しのとおり、と言えば本人に怒られるかもしれないが、そんな中での短い会話に、ふと年月を感じた。
 始めから不思議な出会いだった。行く会合行く会合で出くわすのだ。「またお前か~」と言われてからこのご縁はスタートした。その当時は編集局長だったため、自然と人が集まってきた。辛口だが気さくな人柄と、大柄の割には照れ屋の性格が、さらに人をひきつけたのだろうか。そういえば飲みに誘われたのも突然の電話だった。片っ端から名刺交換した相手に電話でもしていたのだろう。自分から誘っておきながら「ところでお前、だれだったっけ」と、耳の向こうで言われた時は、さすがに椅子からころげ落ちそうになった。この話しは今でも会うたびに酒の肴となっている。
 自分の身体を省みることなく、休みなく働いた団塊の世代を象徴するかのような性格が災いして、定年の声を聞いたときには一緒に食事に行っても、あれほど吸っていたタバコもやめ、アルコールもたしなむ程度になった。腎臓がどんどん悪くなっていたからだ。体が冷えてしょうがないとよく言っていた。退職してからはすっかり出不精になったのか音沙汰がなかったが、さすが元記者である。いつの間にかパソコンも操り、たまにメールで小言を言ってくるようになった。つかず離れず、お互い気にしながら時は流れて先ほどの電話となった。
 久しぶりに顔をあわせたのは入院先に見舞いに行った先月末のこと。体重は10キロ落ち、最近ようやくお粥が食べれるようになったというが、元気そうな顔でホッとした。ここ最近は、病気と上手に付き合うために、持病の知識を学んだり、ジムに通ったり、なるべく歩いて体を動かすようにしていたので、突然の入院は思っても見なかったという。こちらまで痛くなってくるような、6回に及んだ手術を事細かに聞きながら、体は一旦悪くしてしまうと治すのは大変だと言うことを痛感したのだった。 
 ふと以前、教えられた言葉が頭に浮かんだ。体はバランスである。悪ければ悪いなりにバランスを保っていればそれほど苦にはならない。病弱でも長寿を全うした人はごまんといる、というものだ。回復祈り、元編集局長からの、悪いなりのバランス操縦法の便りを待ちたい。
 また突然の電話である。今度は、「おー、お前か~、番号間違えたわ」「・・・」