葉っぱ がんを減らす国と増やす国

2023年7月1日

 国立がんセンターに20年勤務した渡邊昌先生は、ご自分自身が糖尿病になって、それを食事と運動で克服された有名な先生です。どうして医者の立場で薬を使用しなかったというと、幸いにして当時、がんセンターの疫学部長として、生活習慣改善による病気予防の重要性を説いていたため、安易に薬に頼れなかったとのことです。そこで糖尿病を徹底的に調べ、糖尿病には1型と2型のがあること、そして自分は、中年以降に発症する生活習慣病で、食べ過ぎなどから肥満になり、体内についた内臓脂肪がインスリンの働きを阻害する2型糖尿病であるということがわかった。当時ビフテキばかり食べてた先生は、早速その欧米型食生活から、玄米食を中心とした和食に切り替え、食事の時間、食べ方、運動などを含めた生活習慣全般の改善による血糖値コントロールに挑戦したそうです。まず食事内容は、カロリーの摂り過ぎから脂肪分を減らし、そのため肉より魚、野菜多めのメニュー、これが主食の玄米を中心とした主菜、副菜、汁物の一汁三菜という昔ながらの食事でした。これを朝、昼、晩と三十分づつかけてゆっくりとよく噛んで食べる。運動は、有酸素運動が効果的ということで、毎日一万歩を持続。そしてそれが一年後には、十三キロやせることに成功し、血糖値は正常になり、さらにそれだけではなく、肩こりや足の疲れ、水虫などの体の不調も解消してしまったそうです。
 この治療法は、2001年、読売新聞で「薬を使わず、食事と運動だけで糖尿病を治したお医者さん」として紹介されて大きな反響を呼んだそうですが、全国の医者から抗議が殺到したそうです。ここが日本の医療にかかわらずの病根ですね。いいニュースなのに批判ばかりです。医療の現場は患者を診ず、十分な指導もしないですぐに投薬する医師が多い。コロナ=ワクチン接種で、目の前の患者のこと考えようとはしない。ガイドラインに沿ったことしかできない。
 一方かつてはガン大国だったアメリカは、1977年、米国上院の「栄養と人間のニーズ特別委員会」が「アメリカ合衆国の食事目標」これが有名なマクガバンリポートで、国民が抱える疾患は肉食中心の食生活であるとし、その食生活が、命を奪う死病の元とまで言い切ったそうです。
 これを契機に国立衛生研究所が、健康政策に数値目標を定めて体系化した「ヘルシーピープル」を策定、喫煙を減らし、野菜の消費量を増やす数値目標が、国家を挙げて何百とお盛り込まれたそうです。それが功を奏し、喫煙者は半分以下になり、肉食から野菜、果物、穀物、大豆を中心とする食生活に変えることで、先進国で初めてがんを減らす快挙を成し遂げたというのです。
 我が国はどうでしょうか?戦後、がんの死亡者数は7倍になり、ますますがん患者は増え続けています。「日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されてもなお、その優れた先人の智慧に気づかないまま、食生活に立ち返る試みをせず、がん検診と、治療のみに力点が置かれています。食育基本法が2005年に制定され、「食育とは、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」と位置づけられていますが、二十年近く立った今の食に対する考え方はどう変わったでしょうか。食育という言葉は、明治時代の食養家である石塚左玄氏が説いたもので、食育こそがすべての根幹であることを訴えたものです。身土不二、一物全体、陰陽調和という、その後マクロビオティックとして、桜沢如一、久司道夫という方々によって世界に広められたものでした。
 そろそろ日本人も目が覚めないと、国の形が危うくなる時が迫っている気がしてなりません。

参考:「食」で医療費は10兆円減らせる(がんを減らす国と増やす国) 糖尿病は薬なしで治せる (角川新書)  渡邊昌著