葉っぱ 100,000年後の安全

2011年6月1日

 「おい!何かいいネタはないか~。」と、おなじみのセリフを聞いたのは4月はじめのこと。受話器の向こうから少しかすれがかった声が耳元で鳴り響いた。お便りで何度も登場している病気の問屋、K氏である。新聞社を勤め上げ、現在は持病と戦いながらも、編集局でならした腕前を、某サイトのブログで披露している。しかも3日に1回の透析以外はほぼ更新されているからすごい。自費での取材地元愛知県のみならず、岐阜や三重県など近隣地方まで及ぶ。新旧織り成す街道は、K氏の手にかかるとどれもが色彩を帯びてくるから不思議だ。それは日常に埋没してふだん忘れ去られている所に光を当てるからに違いない。少し離れたところに視点をおいて誰もが見落としそうなところ、記者の目は的確にそこにピントを合わせる。真剣に仕事をしてきた証拠だ。しかし、時折ネタに事欠くらしく、忘れたころにメールや電話でその催促をよこす。そのためこの時とばかり、ネット上で話題になった原発に関するサイトをいくつか紹介した。震災以来、情報は原発で一色でありながら、満足な情報を伝えている大手メディアは残念ながら皆無だった。それを証拠に、そのサイトの反響はK氏の予想を超えるものだったという。20年来のお付き合いになるが、共通の話題で情報の共有をしたのは今回が初めてである。しばらくして原発の問題をアップしたというメールが入った。客観的な視点から繰り出す確かな情報、これを読者は求めている。今度はこちらがネタをいただこう。
以下は、K氏許可のもと、ブログ内容を拝借させていただく。
●放射性廃棄物の最終処分場
 日本は福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の後遺症対策ととともに高レベルの放射性廃棄物の最終処理場建設も大きな課題だ。54基もある原発から出る放射性廃棄物はたまる一方だが、日本ではまだ最終処分場の建設場所が決まってない。将来必ず建設しなければいけない最終処分場はどうするのか。今の技術水準で将来安全といえる施設はできるのか。17日のNHK・BS1テレビ「問われる核のゴミ処理」や全国のミニシアターで現在上映されている話題の映画「100000年後の安全」などで、その実態が浮き彫りになっている。17日午前零時からNHK・BS1で放映されたのは、世界ドキュメント「終わらない悪夢(前)」。原子力発電の先進国といわれるフランスが制作したもので、放射性廃棄物・問われる核のゴミ処理問題がテーマ。放射性廃棄物の海洋投棄が1993年に禁止されるまで続けられていたことから始まり、米国や旧ソ連の問題ある放射性廃棄物処理の実態を取り上げている。米国は1943年建設された原子爆弾作成のマンハッタン計画で、プルトリウムの精製が行われたワシントン州東南にある最大の汚染地域、ハンフォードを取り上げ、放置された所から今でも汚染水が地下水を通じ、コロラド川にも及んでいる。また、旧ソ連は核兵器開発のために1948年に建設した原子炉の使用済み燃料の汚染地域、テチャ川周辺地域を取り上げ、がん発生率の多さや死亡率の高さを問題視している。さらにフランスは、日本などから放射性廃棄物を引き受け処理しているが、それが最終的にはロシアのシベリア奥地の貯蔵コンテナに入れられたままで放棄されている。世界に今安全な最終処分場は無いのだ。原爆被害を受けた日本以外にも60年以上前から米国やロシアで放射能廃棄物汚染が起こっている。非常にショッキングな内容だった。18日午前零時から後編がNHK・BS1で放映される。夜中だが、ぜひ見ていただきたい。
 全国のミニシアターで上映中の「100000年後の安全」はフィンランドのオルキルオトに建設中の原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場「オンカロ(隠された場所)」と呼ばれる施設に、世界で初めてカメラが潜入したドキュメンタリー作品。高レベル放射性廃棄物は安全な状態になるまで、10万年間かかる想定でフィンランドでは、かたい岩盤を掘削し地下500㍍に巨大な施設を造るプロジェクトを進めている。10万年もの耐久性がある放射性廃棄物の最終処分場をはたしてつくることが可能なのか。後世の人類に悪影響はないのか、興味深い。福島第一原発の放射能汚染事故で予定を早めての上映。まだ、私は見ていないが、かなりの人が押し掛けているようだ。 
名古屋地区は千種区今池の名古屋シネマテークで5月28日から6月11日まで時間を変更しながら上映予定。ぜひ見てみたいと思っている。
 日本では最終処分場は決まってないものの現在、地下坑道を掘った高レベルの放射性廃棄物を埋蔵処理する調査研究は、岐阜県瑞浪市と北海道で行っている。そのうちの一つ、瑞浪市に昨年4月に行き、地下300㍍の水平坑道を体感してきた。正式名称は「日本原子力研究開発機構東濃地科学センター・瑞浪超深地層研究所」で、月1回の一般公開に参加してみてきたもの。
 同研究所は、2002年に開所、翌年から立坑の掘削作業を開始し、その時の話では主立坑(内径6.5㍍)、換気立坑(内径4.5㍍)とも地下460㍍まで掘り進んでいる。将来は1000㍍まで掘る計画。地下水平坑道は2008年、研究アクセス坑道として深度300㍍のところに完成した。水平坑道の高さは3㍍、幅4㍍、全長100㍍。この水平坑道では①断層や岩盤の割れ目②地下水の化学的性質の変化③坑道掘削の影響や湧き水抑制対策技術などの調査研究を行っている。放射性廃棄物の瑞浪市への持ち込みは、日本原子力研究開発機構と瑞浪市との覚書で一切禁止になっている。いずれ日本はどこかに高レベル放射性廃棄物処分場を設けなくてはいけないが、果たして賛成してくれる自治体があるのか、大きな問題になるだろう。地下300㍍のトンネル内の岩盤がむき出しになっている所を見ながらその時思った。
 以上、K氏の記事である。近くで密かに行われている調査研究と題した工事。結局行き着くところは廃棄物の墓場を作る発想でしかない。次世代に大きなツケを遺してでも現在の生活を守りたいのかを問われている。原発事故がおきてはじめて、世界が共通して抱えている大きな問題を知ることができたのだ。問題の先送りが許されるはずはない。
 「100,000年後の安全」は、5月28日から名古屋シネマテークで上映される。この映画のほかにも、ミニシアターならではの作品が上映されているようだ。正しい情報を知ることによって、一人一人が将来の選択をすることができる。その良い機会になることを願っている。

 上映時間
5/28(土)~6/3(金)18:30~6/2(木)・3(金)は追加上映あり。
6/4(土)~6/10(金)10:30~ 16:00~
6/11(土)~6/17金)10:30~名古屋シネマテーク
名古屋市千種区今池1-6-13今池スタービル2F