
神まかせ
2026年9月30日
九月に入ってからの記録的な長雨と日照不足は、稲の収穫遅れや品質低下となって、米農家を直撃しています。私たちが米作りをしている南知多も例外ではありません。昨年は九月末に稲刈りをしましたが、今年は色づきが遅く、刈り取りは十月中旬になりそうです。
それでも、私たちの稲はまだ幸運なほうです。刈り取って天日に干している最中にこの長雨が続いていたらと思うと、恐ろしくなります。濡れ続けた稲は品質が落ち、カビや発芽、胴割れ米の原因になるからです。天日干しは、藁に残った養分や旨み成分を最後の一滴まで米粒へ降ろし、アミノ酸や糖を高める欠かせない作業です。その大切な工程が、空模様ひとつで命取りにもなる。米作りは、どこまでいっても人の手に負えない力と隣り合わせです。
店の近くに、一三九二年創建の冨士浅間神社があります。毎年十月四日、五日に例大祭が行われ、私も毎年御神灯を奉納し、参拝しています。先月、宮司さんとお話しする機会がありました。かつては大祭に合わせて三十軒近い出店が並び、山車も引かれていたそうです。しかし引き手がいなくなり、保管場所にはマンションが建つことになって、山車は南区の星宮社へ引き継がれました。高齢化とコロナの影響も重なり、今では宮司さんご夫妻で賄える規模で大祭を続けているとのことでした。
店から歩いて三十メートルのところには、豊鶴院というお寺があります。前のご住職は、大病をされてからは電動車いすでよく出歩き、お年寄りに声をかけて回る柔和なお姿が印象に残っています。やがてお姿を見かけなくなり、院内には車いすだけが残され、お寺は無住になりました。 今年に入ると、院内で大勢の人が作業する姿を見かけるようになりました。よくお弁当を買いに来てくださる方が院代を務めておられると知り、お話を伺うと、整備資金もないなか、手作りで護摩堂づくりを少しずつ進めてきたとのことでした。「以前はどんよりしていましたが、最近は通るたびにすがすがしい気持ちになります」とお伝えすると、笑顔で帰って行かれました。
先月末、遠方から来られた尼僧の方に、大般若会があるのでぜひと勧められ、初めて豊鶴院に足を踏み入れました。十三重石塔のあたりでは、法螺貝を携えた山伏の一行が般若心経を唱えていました。法要が始まると、全六百巻の『大般若波羅蜜多経』を、僧侶たちが経題を唱えながら勢いよくパラパラとめくっていきます。テレビでしか見たことのなかった大般若転読が、目の前で行われていました。
今年は豪雨による洪水や土石流、欧州の四十度を超える熱波など、世界各地で自然災害が猛威を振るっています。「自然災害」と言いますが、これだけ地球の資源を搾取し、効率と便利さばかりを追い求めてきたのですから、しっぺ返しが来るのは当然です。食べ物が手に入らなくなってからでは遅いのです。
人の手を尽くしても、最後は天に委ねるしかない。それは米作りも、神社の祭りも、お寺の再建も同じです。身近な自然を敬い、目に見えない神の働きに感謝しながら、人事を尽くして天命を待つ。そうした心構えがなければ、これからの時代を生き残ることはできないのではないでしょうか。
