葉っぱ 中村仲蔵 出世階段

2022年1月2日

 普段、歌舞伎に触れる機会がないため、見ようとも思わなかったのに、ついつい引き込まれて最後まで見てしまったのが、歌舞伎役者の初代、中村仲蔵の出世物語。
 江戸時代の中期、孤児だった中蔵(のちの仲蔵)の貧困のころあり、いじめありの中を、中村座の中堅役者・中村傳九郎の弟子となり、そこから裸一貫で這い上がり、スターの座を掴み取った実話をベースにした物語でした。
 「名題」と呼ばれる幹部役者への道が開かれていくのですが、厳しい身分制度の江戸歌舞伎の世界では前代未聞の出来事だったそうです。そこに立ちはだかったのは、新たな立作者の金井三笑。一座の次回作は超人気演目の『仮名手本忠臣蔵』。三笑は密かにいい役を期待する中蔵に「弁当幕」と揶揄(やゆ)される五段目にしか出ない、全く見せ場もセリフもない地味な役を割り当てます。落ち込む仲藏でしたが、そんな地味役に徹しよう必死でその台本の行間に目をやります。すると台本にはない演出が浮かんできて、本番当日にそれを敢行したのでした。あえて桶で水を汲んでは頭から何度も水をかぶり、水浸しの格好でいざ舞台へ。大立ち回りから已むなく切られ、見栄を切っての死にざま。セリフがないため、かえって凄みがあって、見てた人は釘付されたでしょう。
 六代目、中村勘九郎のはまり役に、歌舞伎という古典芸能を身近なものにしてくれました。

 「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。人生における幸不幸は予測しがたいということ。 幸せが不幸に、不幸が幸せにいつ転じるかわからないという意味で使われますが、本当にそう思います。自分で選択した以上、悔いはないと思っても、状況が悪化したり、思った方向と逆に進んでいってしまうことさえあります。それでも、時が過ぎて振り返ってみると、あの時、大変な思いをしたから得られたことがあったり、逆に進んだことで得られたことが、後々自分の進む方向を定めてくれたりします。中蔵が教えてくれたその場に徹するということが、いかに大切かを改めて感じました。
 十干と十二支の組み合わせは、60種類(周期)。今年の干支は、壬寅(みずのえとら)ですね。
その意味を調べると、「壬」が持つのは第九位の他、女性のお腹に子供を宿す「妊」の一部であることから「はらむ」「生まれる」という意味。「寅」はもともと「演」が由来といわれ「人の前に立つ」、演と同じ読みの「延(えん)」から「延ばす・成長する」という意味を持っているそうです。
 この2つの組み合わせである壬寅には、「新しく立ち上がること」や「生まれたものが成長すること」といった縁起のよさを表している年のようです。
 新年を迎え、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます。