葉っぱ 食品の裏側

2023年8月29日

 今年で3回目となる安部司さんの講演会。主催しているのは小牧にあるこだわりフレンチレストラン、シェシュシュの清水シェフです。安部司さんといえば、著書「食品の裏側」がベストセラーになり、一時期、講演会にメディアに引っ張りだこだった方です。私もこの世界に入るきっかけが、郡司篤孝氏の「怖い食品1000種」を大学生のころに読んだことが大きいと思っています。大手メーカーの作った冷凍食品や加工食品が写真入りでしかも名指しで、具体的な添加物を挙げてその有毒性を公然と批判した本でした。パン菓子も、コマーシャルでよく見るもの、清涼飲料水に大量に使われている白砂
糖など、読み進めるほどに、こんなものを平気で売っている社会に対する欺瞞と憤りを感じたものです。幸い、私の母親は加工品嫌いで、手作り中心で育てていただいたこともあって、目の前にいつでも手に入る食べ物の選択が、いかに大切なものかを思い知らされた気がしました。
 安部司さんは、食品添加物の会社の元トップセールスマン。白い粉の調合で、食べれないものを美味しい食品に仕上げてきたプロでした。30年前の好景気に沸く中ですからいつも午前様の企業戦士だったそうです。そんな中でも、娘さんの誕生日だけは、早く仕事を終えて家に帰っていたというのですが、事件はその時に起きました・・・。
 誕生日に添えらえたご馳走が並ぶ中、ミッキーマウスの楊枝がささったミートボールを口に含んだ瞬間、凍り付いたそうです。それが自分が開発したミートボールだったからです。100種類ほどの添加物を舌で見分けることができたというのですからすごいものです。すでに子供たちもミートボールの取り合いに。その皿を両手で慌てて覆って食べないようにしたというのです。
 そのミートボールは、スーパーの特売用としてメーカーから依頼されたもので、牛の骨から削り取った肉ともいえない、いまではペットフードに利用されている端肉を大量に仕入れたから何か作れないかと、相談を受けたそうです。そこでそのお肉に、卵を産まなくなった鶏のミンチを加えて増量し、ソフト感を出すため組織状大豆たんぱくを加え、そこにビーフエキス、化学調味料などを大量に使用して味をつけ、さらに歯ざわりを滑らかにするために、ラードや加工でんぷんも投入。作業性をよくするための決着材、乳化剤を入れ、色をよくするための着色料、保存性をあげるための保存料、PH調整剤、色あせを防ぐ酸化防止剤も使用して本体が出来上がり、それにソースとケチャップを絡ませるのですが、それも原価を安くするため、それらしいものを添加物でソースもどき、ケチャップもどきを作り上げ、そのソースをミートボールにからめて真空パックにつめ、加熱殺菌して商品の完成。添加物は20~30種類使用し、本来は、廃棄されるくず肉を食品に仕立て上げたのでした。安部司さんの開発したそ
のミートボールは、売価100円弱。原価は20~30円。それが発売してたちまち大ヒット。メーカーはこの商品だけでビルが建ったといわれるほど儲かったそうです。
 そのミートボールを手で覆いたくなるのもわかりますが、その時はじめて自分も家族も消費者だったことに気が付いたそうです。安部司さんの携わったメーカーの社員が、自社製品だけは買わないといっていたこと、自分の会社の干物を買わずに、無添加のものを買いに行ってるとおばちゃんが話していたことなどをはっと思い返したそうです。
 そんなプロの食品添加物のセールスマンが、罪悪感にさいなまれてきっぱり会社を辞めて、選んだのが食品の裏側の世界を伝えることでした。講演中には、その怪しい粉を使って、清涼飲料水を作って、
どれくらいの砂糖を使っているかを見せます。そして希望者に飲ませたり、ミルクチョコレートなどの風味も共有します。菜種油に水素を添加して硬化油を作ってみせ、大量のトランスファット脂肪酸ができるから世界では禁止されていること、しかも製造過程でそれでラーメンなどを揚げていることを
淡々と紹介していきます。作り方を披露することで、いかに安易に食品が産み出され、そしてそれを安易に買う消費者の関係を問います。買うからメーカーは作り続けるのです。買わなければいいのです。食品の裏側を知り尽くした方だからこそ伝わる説得力のあるメッセージ。 
今日の食卓はどうでしょうか?