生きているだけで、いいんじゃない
2009年2月5日
気温が一気に氷点下となった一月下旬、体を動かしたくなって店を出た。吐く息が、昇る太陽の光で煙のように吹き上がる。ふと名古屋城の外堀まで足を伸ばしてみたくなった。池を眺めながら歩いていると、頭とは裏腹に、慢性的な運動不足を体は知っていて、先へ先へと進みたがる。とうとうお城をぐるっと一周しようとしていた。顔に当たる冷気を感じながら真近になった池に目をやると、薄氷が一面に広がり、一層寒さを演出しているようだった。そばには大小数匹のカモが整然と泳ぎ、空にも凍てつく寒さの中を無数の鳥が縦横に飛んでいる。四季は移り変わるが、これらは変わらぬ毎朝の光景なのだろう。自然界の生き物たちに休みなどないからだ。季節に合わせて身づくろいをしたら、寒暖はげしい中でも着たきりすずめで、風邪で寝込むこともできないのである。このごく自然な視野に、最近読んだ一冊の本は、焦点を合わせてくれたようである。
その本とは、お客様が借して下さった「生きているだけで、いいんじゃない」である。この題名は著者のお母さんの口癖だったそうだ。何とも心が和む言葉である。20年以上にわたってマクロビオティックを実践してきた著者が、父のお墓の近くに見付けた広大な土地に家族で移り住み、ブラウンズフィールドと名づけ、大自然を舞台に繰り広げる、愛と笑いと涙のエッセイ集である。読みながら、時折子どもの頃に見た「大草原の小さな家」の淡い記憶と重なった。家族協力してのロフト作りから米つくり、毎日そのものがアドベンチャーである。四季の移り変わり、生命の営み、生きるためのエッセンスが至るところに満ち溢れている。自然の中で、生き物が毎日の糧を探すように、健康というごく当たり前なことが大前提で、それから何をするべきか、分かった人だけが持つ本当の自由な姿がここにあった。
著者は中島デコさんである。大変光栄なことに、当店で2日間、料理教室をしていただくことになった。この便りがつく頃には終わっているころだろうが、岡山や遠方からも駆けつける人もあって、早々に予約でいっぱいになった。料理もさることながら、その人柄にふれることが今、何よりの楽しみである。こんな機会をもっと作っていきたいと思っている。
「生きているだけで、いいんじゃない」中島デコ著