デフレの効用
2003年2月1日
史上2番目の低視聴率だった昨年大みそかのNHK紅白歌合戦。ご覧になった方も多いと思いますが、分刻み視聴率は、豪華衣装の競演をした小林幸子でも、モーニング娘でもなく、デビュー28年目の初出場で富山・黒部ダムから生出演した中島みゆきだったとか。「プロジェクトX・挑戦者たち」のオープニング曲「地上の星」を手がけたことはいうまでもありません。この曲作りにあたって、制作スタッフからの注文は、「無名の人々の光を、歌にしてください」だったといいます。 ご存知のように番組の内容は、熱い情熱を抱き、使命感に燃えて、戦後の画期的な事業を実現させてきた「無名の日本人」を主人公に、今も記憶に新しい社会現象や人々の暮らしを劇的に変えた新製品の開発、日本人の底力を見せ付けた巨大プロジェクトなどが紹介されます。その先達者たちの挑戦と変革の物語を描くことで、再び新たなチャレンジを迫られている21世紀の日本人に向け「挑戦への勇気」を伝えたいという思いがこめられているのでしょう。その思いはオープニングの曲に込められ、高度経済成長の中を黙々と働き続けた中高年層の心を射止めて止まないのが、大きな反響を生んだのだと思います。これは発売から4年、130週目でオリコン1位という快挙が物語っています。(ちなみに今までの記録は、都はるみさんの「北の宿から」が44週目)
ついこの間までは、ホワイトカラーと呼ばれるクリーンな職業が好まれ、反対に技術系や職人は、汗くさいや堅物など、ダーティーなイメージで嫌われる職業でした。もちろん時代背景も物余り、利便性の追求、楽して儲けるという風潮が日本全国を覆っていたかに思えます。しかしバブルがはじけ、好き嫌いで職業が選べない時代になり、日本人の得意な物づくりへの関心が高まったことはかえって良かったことなのではないでしょうか。迫り来る外圧や、列強支配に、いつも高い志と、技術力で相対してきた日本。このデフレの効用が、混沌とした時代に一筋の光をテラスに違いないと願います。