葉っぱ オキナワへ行こう

2021年4月1日

 先月に岐阜県垂井町で行われたフェアトレードデイのプレイベント映画、『オキナワへいこう』を観ました。写真家で映画監督の大西氏が長年追い続けている精神科病院の長期入院患者たちを追った長編ドキュメンタリー映画です。ひとりの患者さんの夢「沖縄旅行に行きたい」を実現させることに看護師さんらが奮闘し、他の希望者4名含めて5名での旅行になる予定でした。ところが主治医の許可が降りない3人の患者が断念、許可が降りたもう一人の男性と二人、無事に沖縄を訪れることができました。これがきっかけで二人の生き方が変化します。その模様をカメラが追うのですが、断念した3人のその後にも光を当てながら、日常に潜む問題点を浮き上がらせていきます。弱いところ、声の届かないところにあえて視点をおいた素晴らしい作品でした。一番驚いたのは、何十年も精神科病院に入院している人がいるということ。そして何十年と入院し続け、退院の見込みがほとんどない慢性期病棟が日本にはあるということでした。調べてさらに驚いたのは、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は日本中で4百万人超。そして精神病床への入院患者数は約28万人、精神病床は約34万床で、世界のなんと5分の1を占めるそうです(数字は2017年時点)。欧米諸国が1960年代から80年代にかけて精神科のベッドを減らし、地域医療中心に移行したのに対し、日本は80年代末まで民間病院の精神病床を増やし続けた結果、突出した精神科病院大国になってしまったとのことです。
 多くの深刻な問題をかかえながらも野放し状態、中でも精神科特有の入院制度である「医療保護入院」は精神保健福祉法が定める強制入院の一つで、本人が入院に同意しない場合に、家族など一人の同意に加え、同じく一人の精神保健指定医の診断があれば、強制入院させられるそうです。ある人を入院させたいと考える側にとって極めて使い勝手がよい制度で、実際その件数は年々増加しているというのです。家族一人の同意が必要というのも、入院する時点に限ってのもので、いったん入院してしまったら、その後家族が同意を撤回しても、入院継続の必要性の判断はあくまで指定医に委ねられることになり、指定医の患者に対する権限は絶大なのだと・・恐ろしい話しと思いませんか?。今回の旅行で行けなかったのも主治医の許可が降りなかったからですが、なるほどそういう制度だからです。
 しかし舞台である大阪の浅香山病院は、そんなイメージを全く感じない明るくてオープンな病院で、しかも看護師さんたちが親身で、医療用ベットがなければ精神科病棟とはとても思えません。キャストの高齢なお二人を見ていると、ショートステイでも来ているのかなと勘違いするくらいでした。
 沖縄旅行の火つけ役でもあり、元千人のスタッフを束ねていた看護部長さんがインタビューに登場しました。現役時代、一生懸命患者さんのためにしたことが、かえって患者さんの自立心を損ねてしまったのではないかと後悔していると心境を語られました。その思いから退職後、NPO法人「kokoima」を立ち上げ、精神障がい者の自立支援や居場所を作ったそうです。 
 最近、85歳になる父に料理の手伝いをしてもらうようにしています。それまでは、手伝おうかと言われても、かえって時間がかかるし、面倒が先に立って、やってもらおうとは考えなかったのですが、その反面、手伝いも大事なリハビリになるのではないかと自問したりしていました。ある日、厚揚げを焼こうをフライパンを出したときに、何かすることはないかと後ろから声がするのでお願いしたところ、嬉しそうにフライパンとにらめっこを始めました。その間にお風呂に入ることができましたが、あがっ
ても、まだ焼き続けていました。弱火にしてあるので、意外にも丁度のいい焼き加減に、思わず褒めたら、それ以降、焼き専門で鮭やししゃもなども苦闘しながら一品料理の担当者です。人間である以上、人のためになにかしたいというのが人情なんですね。そういう思いを持てる環境作りをいかに周りが見守れるかに掛かっている気がします。映画のキャスト5名は皆どちらかといえば病的ではなく、社会復帰しないことが不思議でなりません。それが証拠に、沖縄旅行に行った男性の山中さんは、はるみさんという女性に街で声をかけられ、彼女ができます。そうして10年の入院生活に終止符を打ち、グループホームに移ることになったのです。彼女が最高の薬や~といった山中さんのセリフが最高でした。
 この映画を教えてくださった、エシカル・ペネロープの原田さとみさんに感謝申し上げるともに、今月から西区菊井のCBCハウジングで始まる「シネマ・エ・マルシェ」に是非、足を運んで観てください。めまぐるしく変わる町並みや環境に振り回されて、大切な小さな物事が見えなくなり、それがやがて大きな問題へと変貌していきます。地域の小さなコミュニティーが社会とつながり、小さな問題や声を伝える一人一人の力が問題解決につながると思います。

シネマ・エ・マルシェ
未来つなぐPROJECT〜世界に優しく、地域に楽しく、未来に美しく〜

参考:
精神病院から出られない医療保護入院の深い闇 東洋経済
精神科病院のどこが問題なのか、どうやって変えるか 原昌平 / 読売新聞大阪本社編集委員、精神保健福祉士