葉っぱ 小さな旅で

2023年12月1日

 NHKで放送されている番組「小さな旅」は、その地域に住む人々や生活風景に焦点を当てていて、いつ見ても心が躍る数少ない好きな番組の一つです。その番組で9月に放送された遠山郷へ、先月末に行ってきました。
 旅の目的は、ある人が配信しているSNSなどを10年以上前からフォローしているのですが、その方が遠山郷で時々塾を開いているのが分かり、時間があいたら行ってみたいとチェックしていましたが、それが先月叶ったのでした。
 車で中央道から南信州へは約2時間半の道のり。飯田山本ICを降りてからは、起伏のある山道を進んだり、紅葉が色づいた山あいを走ったりと飽きない風景を見ながらの小旅行でした。
 遠山郷は、近くに百名山の聖岳と光岳があって、登山客にもさぞかし人気のスポットかと思って聞いてみると、その二つの山は車で近くまで行けないので、入山口まで距離があるらしく熟練した登山者が登る山ということでした。道理でツーリングのバイクの人達や、停車してる車も多いにもかかわらず、道の駅は、週末土曜日というのに休業していました。そこから数分車で走ったところが目的地の昭和7年に建てられた旧木沢小学校。平成3年には26名となり休校、平成12年に廃校となったそうですが、校舎の保存に尽力する「木沢地区活性化推進協議会」の皆さんによって、90年たった今でも形を残していました。
 そんな昭和の郷愁漂う廃校舎にドラマが起きます。1匹の雌猫が住み着き、いつの間にか猫校長と呼ばれ、人々に愛されるようになったのです。今から16年前の9月の雨の日に目が開いたばかりで捨てられていたのを、巡回していた駐在さんが見つけ、以来近所みんなで世話したそうです。ふと、うちの店にひょっこり現れた猫の「あい」ちゃんを思い出しました。この子も目が開いたばかりでした。それから8年の間、店の看板娘で庭を住処にしてくれました。この猫校長の名前は「たかね」。まだ間もないなんと先月の7日に、16年の生涯を遂げたということでした。そのお別れ会がちょうどその日の昼から行われていたということで、不思議な繋がりを感じました。なんとズーム配信で、2000名以上が参加したそうです。「たかね」がすみ着いた年は、住民主体で校舎などの保存活動が始まって3年目で、資金難や校舎の耐震性への懸念から保存が危ぶまれた時期だったそうですが、そんな中で「たかね」を目当に学校を訪れる人が増え、学校の魅力に気付いた地元住民も多かったそうです。まさに招き猫でしたね!
 その小学校の校庭からすぐそばにある木沢正八幡神社。1502年に建立されたと伝えられ、古くは遠山全体(遠山6ヶ村)の惣鎮守(そうちんじゅ)であったともいわれるそうです。有名な霜月祭りは、今も行われています。神殿内は暗くて見えにくかったですが、中央付近に大きな竈がありました。本当は、竈が3口あるそうです。その竈で湯を煮えたぎらせて神々に捧げます。祭りのクライマックスになると天狗などの面が登場し、煮えたぎる湯を素手ではねかけます。ふりかけられた禊ぎの湯によって、一年の邪悪を払い新しい魂をもらい新たな年を迎えるそうです。
 このお祭りをヒントにして宮崎駿監督が「千と千尋の神隠し」が作られたと言います。大切な伝統と文化を継承してきたとは言え、10年前には2000人だった人口も、今では1100人に減少。道の駅近くの大きなスーパーも閉鎖が決まっているようです。日本各地でみられる高齢化による限界集落の一つに数えられるのかもしれません。でもあえてその方は、遠山郷から日本を変えると言って、17年前からこの地で、毎月塾を開いては、さまざまな情報を配信しています。
 なぜこの場所なのか?その理由を尋ねたところ、学生時代にサイクリング部で全国各地を周ったそうですが、もう一度、この地に訪れてみたいと思ったことと、住んでいる人の人情だったそうです。
 当日イベントでは、木沢小学校に全国各地から様々な業種の方がたくさん集まってきて盛り上がりました。「これからの時代、一番大切なのは義理と人情、これさえあれば法律はいらない。法律ない時代は、みんなそうやってやってきてたんでっしょう?義理と人情がなければ、これからの時代を生き抜
くことはできません」
 ねこ校長がいた木沢小学校。小さな命を大切にしてきた皆さんとその校舎にこの言葉はこだましてるようでした。