大腸の健康法
2020年1月1日
毎週土曜日、NHKラジオで放送されている文化講演会は、職種、業種がさまざまな方々の話しが聞けるので、楽しみの一つになっています。先月の末、「大腸の健康」というテーマで、医師の松生恒夫氏のお話しがありました。これまで、4万人もの患者さんの大腸内視鏡検査を実施してきたスペシャリスト。そして東京慈恵医大の出身ということで、明治の脚気論争についても言及があったため、一層聞き入ってしまいました。
以前にお便りでご紹介したことがありますが、明治時代に起こった日清戦争や日露戦争では、戦死者より脚気による死者のほうがはるかに多くて事態は深刻だったそうです。その中、陸軍では白米を推奨し、脚気は細菌よるものとして、細菌探しに躍起になっていました。一方、海軍では、脚気は食事に原因があるとして、麦飯や、当時馴染みのなかったカレーも取り入れたそうです。
その結果、海軍での脚気による死亡者は皆無に等しく、一方の陸軍で大量の脚気死亡者を出したのです。その頃の陸軍の責任者は、東大医学部、後の森鴎外です。そして海軍の責任者が、後の慈恵医科大学の創始者、高木兼寛氏で、後の「ビタミンの父」となる方でした。陸軍軍医団を筆頭にドイツ医学一色で学理第一・研究優先になっているのを憂い、英国から帰国後、臨床第一の英国医学と患者本位の医療を広めるため設立された病院とのことです。
お話しは期待通りの内容でした。以降内容を列挙します。昭和四十年前後の日本の食生活は、漬物やお味噌汁など麹を使った食品が多く、大腸の病気はたいへん少なかったそうです。それから数年後に腸に良いとされて、ヨーグルトの普及が普及しました。食生活も欧米並みになり、肉類、乳製品の消費量が急増します。ファーストフード、コンビニ食などが当たり前になった現在、大腸がんなどの腸に関する病気がそれとともに激増しました。先生曰く、そもそも乳製品や肉類、ヨーグルトが腸の環境に良いのか?北ヨーロッパと、南ヨーロッパの大腸に関する病気の関連を見るとよく分かるといいます。
北ヨーロッパのアイスランドやノルウェイ、イギリスは、潰瘍性大腸炎や大腸がんが圧倒的に多く、一方の南ヨーロッパであるイタリアやスペインは、それが、圧倒的に少ない。その食生活は、オリーブオイル、穀物、魚や果物が中心で、砂糖もメインでは使わないそうです。この地中海食が、腸にとてもいい事がわかると。そしてこれが日本の食生活に似ていることです。しかも日本の伝統食には、麹菌を使った味噌や甘酒などに、蛋白を分解する酸性プロテアーゼを多く含んでいて、腸の悪玉菌を抑え、善玉菌を増やす働きをするそうです。日本の伝統食が、腸の環境に良いことを、腸のスペシャリストの先生が、長年の研究をもとに自身を持って話されていることに、とても勇気づけられました。
先生の、松生クリニックでは、下剤を少しでも使わなくするために伝統食を更に研究しているということです。水溶性食物繊維の重要性にも触れていました。旬の果物や、もち麦などに含まれていることから、ブームになったようですが、便を柔らかくして排出しやすくする作用と、酪酸が作られることで、腸と腸内細菌を元気にしてくれる作用があるそうです。
新年度に当たり、日頃の食生活を見つめ直してみるのもいい機会かもしれませんね。ぜひ、ご参考にして下さい。