千年の森
2016年10月1日
原田さとみさんから設楽ダムの是非をめぐる公開講座があることを教えていただき、その講座に足を運んでからすでに4年が経った。その間、民主党から自民党に政権が入れ替わり、公共事業が息を吹き返した。アベノミクスなどというあやふやな言葉をひとり歩きさせたことにより、一極集中が加速し、都会への人口の流出が地方をどんどん疲弊させている。田んぼや畑を管理する人達の高齢化もあって、耕作放棄地は平成17年には東京都の1.8倍に相当する何と38.6万ha(平成19年農林水産省調べ)と、増加の一途をたどっている。誰が見ても将来の我が国の行く末が見える数字ではないだろうか。食糧や水資源の危機が叫ばれる中でも、緑の山々をコンクリートで覆い尽くす事業は全国各地で止まない。最近の台風では、ライフラインや設備の老朽化のためか、少し荒れた程度の風雨で鉄道は止まる。公道に水は溢れ出して渋滞を引き起こしている。持続可能な社会を作らなければならいないはずが、開発という経済効果の名の下、多くの借金をこしらえながら反省もなしに作ることばかりにやっ気になっている。そして誰も責任をとろうとしない。まったく大人社会の体をなしていない。
先月、ダムネーションという映画を主催したことでご縁ができた方から、その設楽町へ来ないかというお誘いをいただいた。何でも千年の森という場所で、間伐などの作業を手伝うということだった。昨年、四谷千枚田で米作りをした以来一年ぶりとなる。店から車で一時間ほどで足助を通過し、それからは深い山道を延々と走ること一時間、ようやくその方との待ち合わせ場所に到着して北へと向かった。途中、名倉という町中を通った時、日本でも有数な美味しいお米が取れる場所だと教えていただいた。周りは山に囲われ、その湧き水でお米を作っているというから合点がいった。そこからさらに20分、険しいな山道を進んだ段戸山辺りにその森はあった。この一帯はブナの原生林など樹齢200年超えの巨木が残る貴重な森だそうだ。そこでお会いさせていただいたのが加藤ご夫妻。このご夫妻は測量設計士の顔以外に、地域のボランティアガイドとして段戸裏谷原生林(きららの森)、津具地区の面ノ木園地などを案内したり、「奥三河の自然と歴史にふれあう会」の会員として自然保護活動に尽力されている方で、お二人だけで20年かけて針葉樹の山を切り開き、ブナの植樹をするなど大切な森が次世代を超えて千年続くように願いを込めて作られたのがこの千年の森だった。最近では、近隣の小学生に、加藤さん自ら、そこに自生しているブナからどんぐりを拾って育てた苗木を卒業記念植樹として山の至る所に植える活動もしているという。まだ小さい植樹された木に目をやると、一本一本に、卒業生の名前が掛けられていた。一人一人をその木の所有者として登録してるため、勝手に本人以外が木を切ることができないそうだ。その子どもたちともに苗木が育つ。きっと自然や環境に関心を持つ心が芽生えていくにちがいない。
ダムの標的となった町では、二度と戻らない自然環境とそこに生活する人達がいる。その一方で、自然と共生する活動は、ひっそりと、確実に行われていた。そんなご縁をいただいた設楽の明日を考える会の中沢さんに感謝するとともに、下流域に生活する私たち一人一人は、ただその恩恵を水道料金というお金で済ますのではなく、ダムによって犠牲になる人達や失われる多くの生物や環境のために何が出来るかを強く感じる一日になった。
参考記事 キラッと奥三河「「きららの森」大きくなーれ 加藤博俊さん」