「それは不可能か」
2016年7月1日
今からちょうど25年前の7月、思えばこの店がオープンする2日前に出会った方がいる。先月の末にその方が長年務めた会社を退職されたため、縁のある仲間と慰労会をさせてもらった。杯を交わすたびにこの間の思い出が頭を駆け巡った。ヘルシングあいを引き継ぐ前のこの時期は、個人事業主として今も店の定番商品であるヘルシーアルファーや龍泉洞の水など、人の健康に関する商品を取り扱っていた。
それがこの方とのご縁から、大きな工場設備で使用するため水と空気などの環境設備という畑違いなことも勉強することになった。りんごの落下で有名なF=ma(ニュートンの第2法則)がその方の会社の社是。人間の力ではどうしようもない自然法則の下では、社員はすべて同列。部長や課長などの職制もなく、役員の選出も入社5年以上の社員が投票で決めるなど、ユニークを通り越した社風に魅せられたのは言うまでもない。もともと文系で理系は不得意と決めていた学生時代。それが今回の縁で少なからず苦手分野に取り組むことになった。ところがそれが後に大型の水処理装置と、喫煙ルームの大型空気清浄機を採用していただくことになり、しかも自然法則をかじることで、西式健康法を理解する上でも役に立った。人間万事塞翁が馬とはよく言ったものである。
今から思い出しても、よくその方に叱られたものだ。自分の立ち位置が分からず相手の意図を理解できない営業、はじめて直面する場面にきちんと対応できないことに憤りを感じていた時期でもあった。しかしそれでも見限られずに面倒を見てくださった。厳しい反面、仕事の話しが終われば、いつも通り親しげに話しかけてくれた。花見の季節には毎年、敷地内にある大きな桜の木が咲き乱れる下で大宴会が催される。そんな場所にもお声をかけていただいた。中でも印象深いのは、現在の西区に移転後に売上減で店が潰れそうな一番苦しい時期に顔を出したところ、そっとその桜の木の下に呼んで下さった。桜が満開だった。会話の内容は覚えてないが、記念に写真でも撮ろうといって事務員の方が撮ってくださった。それは今でも大切に机の中にしまってある。総務の責任者として会社を束ねているその方の姿勢に、経営とは、仕事とは何か、そして特に人間関係の大切さを骨身にしみるほど学ばせもらった。感謝に耐えない。今でもその方のおかげで今の自分があると思っている。
その会社に一歩入ると正面に、大きな木製の額を彫り出して、「それは不可能か」という文字が浮き上がっている。25年間その言葉を見るたびに、自分自身を奮い立たせてきた。何が可能不可能を決めているのだろう。それは自分自身でしかない。今の苦境は後の糧かもしれない。今の体調不良は、後の健やかな健康を得るための貴重な体験かもしれない。出来ないと思っているのはきっと自分自身でしかない。それならいっそのことこれからも自分自身に問いかけてみたい「それは不可能か」と。