アルケミスト(錬金術師)
2015年10月1日
最近カフェに来店される外国人の方が増えている。先月初旬のこと、カウンターでまかないを食べていたら、隣で英語で会話している声が聞こえてきた。振り向いてみると、顔の彫りが深い東洋人男性、女性二人は東南アジアを感じさせる雰囲気をしていた。食事を終えたその方々が精算をするためにレジに来ると、一人の女性が流暢な日本語で話し始めた。彼女はビーガン(厳格な菜食主義)のため、食事できるところ探して当店に来てくれたそうだ。とても美味しくて気に入ったと言ってくれた。そして付け加えて言うには、自分はあいち国際女性映画祭にフィリピンのミンダナオ島を舞台にした映画に出演した女優で名前はMaraだと教えてくれた。彫りの深いその男性は彼女のお父さんで徳之島出身の日本人。彼女も6歳まで日本に住んでいたという。その後は海外を転々とし、今はフィリピンに一人で住んでいるそうだ。久しぶりの父親との再会で、はしゃぐという言葉が似合うほど仲が良く終始ご機嫌だった。そしてもう一人の女性はその映画を作った監督だった。是非映画を見に来てくれと強く念を押された。
翌日、「カナ 夢を織る女」と題したその映画を見るためウィルあいちを訪れた。台本を読んで、主役にどうしてもなりたいと思ったそうだ。大規模な開発が進むミンダナオ島の美しいセブ湖の周辺に住む先住民族であるティボリ族、そこを舞台にした若い二人の悲哀の物語だった。彼女を含めた6名の俳優以外はすべて現地の村人、しかもセリフもティボリ語。3ヶ月という短期間で選ばれた俳優は語学も習得して役に望んだことになるが、そんな素振りすら感じさせない素晴らしい映画だった。 Maraが今回、来日してまず向かったのがブックストアらしい。そこで父親にすすめた本が「アルケミスト」ー夢を旅した少年ーだったという。どうやら大ベストセラーの本らしく、そんな話しを聞いて読まない訳にはいかないので購入した。内容は、羊飼いの少年サンチャゴが、アンダルシアの平原から長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を越えてエジプトのピラミッドへ、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて旅をするものだ。一見、何てことはない内容が、読み進めていくうちにその物語に吸い込まれていった。
久しぶりに気持ちのいい本に出会った。「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」など、貴重なメッセージが数多く散りばめられていて、いつか忘れさられていたものを取り戻した気がした。
あの日に彼女たちが食事に来なければ、こんな素晴らしい本に出会わずに今も暮らしている。別段知らなくても生きていける。しかし豊かな人生を作るということは、瞬間の出会いの糸を紡いでいくことの繰り返しなのかもしれない。繰り返し織りなしていくことで、一層深まった自分に出会う。それが地中にある宝物、本当の自分を見つけることになるのではないだろうか。
「アルケミスト」ー夢を旅した少年ー 角川文庫 パウロ・コエーリョ