第3回設楽ダム公開講座
2012年12月1日
蒲郡で行われた設楽ダムの公開講座に行ってきた。10月にその講座があることを知って今回で2度目の参加となる。会場は空席がポツポツとあったが、200人近くは来ていただろう。参加者を見渡すと男性の高齢者が圧倒的に目立った。その一方で女性は数えるほど。前回も含めて、河川全域、そして海や川に与える環境の問題のはずが、その無関心さに愕然とさせられた。原発の事故以来環境事業に関する目が厳しくなったはずである。ダムなどその最たるものではないだろうか。身近な食品にはあれほど神経をとがらせていながら、なぜそれが生産される環境には無関心なのだろう。ダムを作るということは一つの村が水没し、新たな人工的な川によって生活用水が確保される反面、川底の環境や、その汚泥が豊かな海に影響をおよぼすということは過去に何度も言われ続けてきたことである。その環境を壊してまで、果たして今の我々の生活用水のためにダムが必要なのか。行政が口をだすのではなく、地域住民及び周りの一人一人が考えることである。原発と同じで出来上がってしまった後からどれだけ叫んでも、昔の自然はもう戻ってこないのだ。一握りの知識人にそんな重要なことを押し付けて、今までと同じように知らん顔ができるだろうか。 全国の干潟の半分近くが埋め立てや開発で失われている。三河湾沿岸の干潟も1,200haもの面積が1970年代の開発によって消滅したそうだ。その面積たるや中部国際空港2個分に当たるという。今回の講座は、そんな干潟に生息する小さな小さな生物に光を当てることによって、環境と命の大切さを考えるものだった。
第一部は名城大学大学院総合学術研究科特任教授 鈴木輝明氏「二枚貝類の水質浄化機能と豊川河口域における大量発生の仕組み」。そして第二部が株式会社京北スーパー相談役の石戸孝行氏「しじみから教わること」。この小さな二枚貝類の働きを通して見えてくるものがある。これらが生息する干潟の働きは、海の水質汚染の原因となる窒素やリンなどの有機物を分解する上、赤潮の原因となる植物プランクトンを摂食する。海をきれいにする天然の浄化フィルターといったところだろう。しかも一切お金がかからない。そして分解した排泄物がこんどはアマモなどの海藻の養分になる。その海藻に魚が寄ってきてすみかを作り、植物プランクトン等を摂食する。今度はその魚を目がけて野鳥などが飛来してくる。見事なバランスで海を豊かな環境にしているのだということを、今日あらためて学んだ。本来、上流の森や中流の平地からさまざまな栄養分を干潟に運んでくる川が、ダムの建設によって一体どうなるのか。専門家でさえ干潟に与えるダメージは予測ができないという。しかしひとつ言えることは、一度失われた自然の干潟を再生する技術など、我々人間は持ち合わせていないということである。
原発の事故以来、海も山も汚染されて危険と騒いでいる。しかしどれだけ騒いでも、事故以前の環境は戻ってこない。それよりこれ以上、未来の世代に汚染を残さぬように努力することが現在、この地に生きている人間の役目なのではないか。
今の医療もそうであるように、人間がなにか手を出すことでますます自体は悪化することのほうが多い。ましてはダムは、戦後最大の災害に備えてなどという言い回しが、そもそもおかしいのである。自然には人間が無力であるということは、昨年の震災でよく分かったはずだ。それでも懲りずに自然に歯向かうほうがどう見ても不自然なのだ。そして人間が手を入れたものは、釜石湾の世界最大水深の防波堤のように簡単に崩れてしまうのである。
「すべての病気はかかったあとで治すより、かかる前に予防するほうが容易である」(イギリス海軍医ジェームス・リンド)会場で石戸氏が語ったこんな言葉が胸に響いた。