葉っぱ 統計学的思考術

2011年2月1日

 最近めっきり新聞を見なくなった。当店のカフェにおいてあるのは一日遅れの東京新聞である。な
ぜまた東京なのと聞かれるのは当然のこと、読む人にとっては一日でも過去のニュースだからこれほど失礼なことはない。しかしそれは見なくなった理由からそうさせていただいた。ニュースはもは
や携帯やインターネットでいつでも手に取れる。それに一般紙は見ているはずだ。だから読み応えのあるものを探したのだが、どれもさほど面白みがない。よく学生時代、担任の先生が口をすっぱくして言っていた「見出しに惑わされるな!真実は新聞の片隅に小さく書いてあるものだ」という文句もその頃はわからずも、年とともに言葉の重みは感じてはいたが、最近はそれさえも探すことができない気がするのだ。そんなことから、一番汗をかいて取材していると感じるこの新聞を置くことにした。
 週に何度か送られてくるメールに日経ビジネスオンラインがある。その中に目をひくものがあった。それは統計学的思考術という硬い言葉だったが、それとは裏腹に、現在の社会や経済問題にあてはまる有意義な内容だった。少し興味が出たので統計学について調べてみると、その源流は、国家または社会全体における人口あるいは経済に関する調査とある。社会科学、医学、工学、計量経済学、統計物理学、バイオテクノロジー、疫学、機械学習、制御理論、インターネットなど幅広い。もうひとつ、統計や理論を使って人間にまつわるさまざまな事柄を説明し予測する易・占いもそういえる。
 今回の記事の著者である吉田耕作氏は、トヨタを例に挙げて統計学的思考術でその問題にせまっていた。日本の製造業で、アメリカ人の統計学者デミング博士を知らない人はいないらしい。氏が日本の経営者に教えた統計的品質管理=TQM(Total Quality Managementの略で、組織全体として統一した品質管理目標への取り組みを経営戦略へ適用したこと)は、消費者が生産システムの一部に入った画期的なもので、特に製造業に大きな影響を与え、品質第一のモノ造り、モノ造り日本といわれた所以だという。今日の日本があると言っても過言ではない。その中でトヨタグループが最も世界で進んでいた企業だったそうだ。カイゼンという言葉が生まれたのもその取り組みの一環にすぎない。徹底的な品質管理と日々の改善により、世界の頂点まで視野が入った昨年、信頼を失墜するリコール問題がおきた。その問題点を著者は、質への究極点指向を忘れた結果であり、それはトヨタの品質の高さは、法的に要求される基準値に入っていればそれで良いという合格点指向ではなかったこと。そして消費者からのフィードバックという最も大事な部分が欠落してしまったこと。これによって起こるべくして起こったことであると語っている。この言葉の重みは、あらゆることに通じるものではないだろうか。何か問題がおきたときに、この「基準値内」という文句はニュースで耳にする都合の良い言葉だ。そこに消費者の姿はない。基準値内であれば命の品質管理ができるのだろうか。衣食住にまつわるさまざまな問題は、この部分につきる気がするのである。
 ちなみにデミング博士の日本の活動は、日本が世界を席巻するようになってから米国でも知られるようになり、それから結果としてコンサルティングの依頼が劇的に増え、93歳で亡くなるまで世界
中で企業のコンサルティングを行ったという。圧巻は、アメリカの経済を立ち直らせ、公務員の改善
改革で16兆円のコスト削減に成功し、クリントン政権時代に大きな黒字を出すのに成功させたとい
う。まさに小さな毎日の取り組みが、さざ波となり、結果大きなうねりとなった証拠だろう。こんな有益な情報を知らせることも、活字文化の仕事のはずだ。さもなくば、こんな情報を無料で直接ユーザー(消費者)に届けてくれるネット社会に飲み込まれてしまうだろう。

参考 日経ビジネスオンライン http://business.nikkeibp.co.jp/welcome.html