葉っぱ 降りていく生き方

2010年5月1日

大きな政変があった昨年から自主上映されている映画、「降りていく生き方」は、先月でちょうど一年を迎えたそうだ。偶然にも当店のスタッフが、この上映会のボランティアをしていたことがきっかけとなり、行く機会を得た。一部の方にはお便りにこのチラシを同封させていただいた。それもあって事前に詳細を確認したのだが、はじめは好きな俳優の武田鉄矢が主演してるし、内容も題名が表わすように、足元を見る生き方を表現した作品と感じていた。あらすじやコメントなどを読みながら、新潟が舞台というこの映画に、ふと一人、頭をよぎった方がいた。
私の20代前半は、バブルが弾けたとはいえ、まだ、日本全国泡踊りの状態が続いていた。弾けた一粒一粒の泡にすがって、まだ余韻が楽しめたのだろう。しかし、当時は、漠然とした成功という二文字に将来を輝かせ、仕事に打ち込んでいたときだった。そんな折、あるイベントに参加したことがきっかけで、新潟の印刷会社を経営するSさんとお会いする機会を得た。多くの社員を抱える経営者でありながら、物腰が低く、お会いするたびに、やさしい笑みを浮かべながら、気軽にお声をかけてくれる方だった。その人柄が表わすように、その会社は、社員が主人公であり、マネージメントゲームを通して、経営のいろはを共に学んでいくという異色の経営で世間を驚かせていた。以来、事あるごとに、その方の携わるイベントに伺った。一番記憶に残っているのは、社員が一年に一回行う、身近なものを題材にして発見したことを発表する場である。夜通し車を走らせて、新潟に朝方到着し、その行事を見学させていただいた。たくさんの社員の方が、どんどん発表する中、ひときわ大きな拍手で迎えられる人がいた。どうやら、昨年の発表会で優勝しているらしい。話しが始まると、会場は一気に笑いの渦と変わっていた。その年も、彼が優勝を飾ったのは言うまでもなかった。その時のSさんとの会話は今でも鮮明に覚えている。「すばらしい社員の方ばかりですね、特に、あの優勝した方は、どういうポジションで働いているのですか。」期待を込めて聞くと、Sさんは、「いや~、伊藤さん。実は、彼は仕事がぜんぜん出来なくてね、思い切って辞めさせようかという話しが出たくらいですよ。それでもみんなで出した結論はね、仕事が出来ない社員が一人くらいいたっていいじゃないか。っていうことになったんですよ。彼は一年に一回、これだけの声援をもらって働いているじゃないかってね・・」その後しばらくしてSさんは、経営を弟に任せて第一線をあっさり退き、ちいさな自分ひとりの会社を立ち上げる。そしてまちづくり活動にとどまらず、学校や教育、福祉や介護や医療、自然保護活動、企業活動などを包含したより広い分野を、やさしい目線に立って事業プロデュースを行っていく。
そういえばSさんはどうしているだろう。すっかりご無沙汰をしてしまっている。キーボードを打つ手が思わずとまった。この映画の作品概要に、その方の名前が書いてある。その内容を一部ご紹介して終わりにしたい。
・・・脳内出血で倒れ、車椅子での生活を送っています。しかし、家族、地域、そしてこれまで一緒にまちづくりに取り組んできた世代を越えた全国の方々の支えと、情熱によって、元気を取り戻しました。苦境にも果敢に立ち向かい、自ら「降りてゆく生き方」を実践するS氏を、私たちはエグゼクティブ・プロデューサーに迎え、本映画をより深め、本質に根ざしたものとすることができたのでした。