勝つより負けるほうが
2007年11月1日
「勝つより負けるほうがいい」絵と文字を組み合わせた作家の田家阿希雄さんという方が描いた作品が家の玄関に飾ってある。もう20年近く前のこと、ギャラリーを経営していた知人のところに顔を出した時、たまたまその方の個展最終日で、打ち上げパーティーをしている真っ最中だった。机の上にはお酒やおつまみがところ狭しと並び、壁には売約済の印がついた絵がずらりと並んでいた。やわらかい水墨調の絵からパステル画や油絵と、素人目にも楽しませる作品ばかりで、しばらく見入っていた覚えがある。と、先の作品が目に飛び込んできたのだった。血気盛んな年令だったから、なぜ負ける方がいいのか。ほろ酔い気分も手伝って、その絵をゆび指しながら、お酒の入ったグラスを片手に理由を迫った。そんな若気の失礼な態度を察してか、その方はさらに温顔な表情になって、腕組みしていた手を解きながら、人の痛みが分かるからじゃあないかな。と静かに話された。
先月の下旬、父親のようにお慕いしていた恩師が亡くなった。80歳をすぎても背筋がピンと真っ直ぐな方だった。進行の早い胃癌だったため、ささやかな時間しかお供が出来なかったのが悔やまれた。だれでも人生に浮き沈みはつきものだが、一番辛かった時に、拾われてお世話になったと思っている。はじめてお会いした時に、以前は会社を経営して、従業員も使っていたが、つまずいて一人になったんだよ。世の中には、成功と失敗の二つしかないように言われているが、そんな簡単に片付けられるものではない。成功している人だって、その家庭がうまくいかなかったり、心が不幸な人はいっぱいいるよ。一人前というのは、人の痛みが分かることだ。失敗したから分かるんだよ。と、にこやかに話されたのが昨日のようである。
今日も変わらない表情の絵を眺めては、自分の戒めにと深く刻むのだが、なかなか難しいことですねと、恩師に問えば、口癖のように言っていた言葉が返ってきた気がした。
ご苦労さん・・と。
先月の下旬、父親のようにお慕いしていた恩師が亡くなった。80歳をすぎても背筋がピンと真っ直ぐな方だった。進行の早い胃癌だったため、ささやかな時間しかお供が出来なかったのが悔やまれた。だれでも人生に浮き沈みはつきものだが、一番辛かった時に、拾われてお世話になったと思っている。はじめてお会いした時に、以前は会社を経営して、従業員も使っていたが、つまずいて一人になったんだよ。世の中には、成功と失敗の二つしかないように言われているが、そんな簡単に片付けられるものではない。成功している人だって、その家庭がうまくいかなかったり、心が不幸な人はいっぱいいるよ。一人前というのは、人の痛みが分かることだ。失敗したから分かるんだよ。と、にこやかに話されたのが昨日のようである。
今日も変わらない表情の絵を眺めては、自分の戒めにと深く刻むのだが、なかなか難しいことですねと、恩師に問えば、口癖のように言っていた言葉が返ってきた気がした。
ご苦労さん・・と。