葉っぱ 蝉が語る環境問題

2005年8月1日

先月の下旬、遅い夕食をとっていた時のこと、パタパタと時折する羽の音が気になって外を覗いて見ると、のら猫に追われて蝉が逃げ惑っていた。猫が早い動きで追いかけている。しかしそこに私の顔がひょっと覗いたせいか驚いて逃げていってしまった。もどりかけようとしたら何かが視界に入った。何だろうと思い、そこに焦点を合わせると、ダンボールの蓋のところにら見かけないものが引っ付いている。近づいてみると、ナント蝉が孵化したところだった。まだ、ぬけ殻にしっかりとぶら下がってる。白色の身体に淡く緑色をまとっていて、透明な羽が美しい。これは「シャンシャン」うるさく鳴くクマゼミだ。はじめて孵化した現場に遭遇して、しばらくじぃ~と見入ってしまった。子供のころは、両親の実家が長野だったので、夏休みの大半は長野。近くの山々へ昆虫を捕りに行った。木の枝についている蝉の抜け殻を見つけては孵化する瞬間が見たくて、畑で幼虫を捕まえようと蝉の穴を見つけては何度もトライした記憶がある。思うようにいかなかったが、今、偶然にせよこうして孵化の瞬間に遭遇することが出来たことを嬉しく思えた。
同時に一つの疑問が頭に浮かんだ。ここ数年、めっきりアブラゼミが減って、なぜクマゼミが増えたのかということだ。子供のころ見かけるのはアブラゼミばかりで、クマゼミを見つけようものなら、一目散に捕まえにいったものだった。ところが年々、その割合は大きく変化している。大きな疑問を解決しようとパソコンの前に向かった。そこで分かったことは意外なことも含むものだった。
アブラゼミのいる環境は林内で落ち葉があり、湿ったところを好むそうだ。一方、クマゼミのいる環境は地面に下草がほとんどなく、落ち葉の掃除も行き届いた乾燥した環境で、道路沿いの林縁部。亜熱帯から熱帯に生息する南方系の蝉なのだそうだ。私の中ではどちらかというと好まないアブラゼミは、実は、世界でも珍しい羽に色がついている蝉であって、しかも、自然環境を好むそうだ。昨年12月に大阪府がまとめた「セミの抜け殻調査」では、50年ほど前には大阪でほとんど見られなかったクマゼミが急増していることが分かった。小学生の集めた抜け殻約2万2000個のうち6割弱がクマゼミ。更に南方で見られるナガサキアゲハも1995年以降、近畿で見られるようになり、昆虫の分布域は北上を続けている。などなど多くの情報が公開されていた。それは気候そのものにも異変が起きていることを関連付けている。日本に上陸した台風の数は90年代に入って増え、昨年は史上最多の10個を記録。欧州やアジア、米国でも洪水や熱波に襲われた。生態系の異変や異常気象は、温暖化やヒートアイランド現象と結びついているのではないかとみられる。といったことが分かったのである。
夏の風物詩である蝉はとても身近な昆虫だ。それらの幼虫は約6年間もの間地中で暮らす。そしてやっと成虫になって私たちの前で鳴いているのがたった1週間。この儚さが、日本人の感性に訴えかけるのに十分な一生であるのかもしれない。松尾芭蕉の有名な俳句、「閑さや 岩にしみいる 蝉の声」にも十分著されているのではないだろうか。蛇足だが、芭蕉のこの蝉の声の正体を巡って斎藤茂吉らが大論争を繰り広げたそうだ。結局その正体は時期的にニイニイゼミだということで落ち着いたそうだが、そのニイニイゼミがいなくなったら芭蕉の名句の感動を味わうこともできなくなってしまう。という一文を垣間見た。環境の変化とともに、四季の変化も、私たちの心も様変わりしていくことを暗示するその言葉に、複雑な思いがしたのだった。